蟲師

素朴な絵柄にノスタルジックな雰囲気、普段あまり使わない感情を呼び起こされるような物語で、いつまでも色褪せない作品があります。

世界観は作者曰く「鎖国を続けた日本」もしくは「江戸期と明治期の間にある架空の時代」だそうで、作中に広がる景色には帰郷したような懐かしさを感じます。

「蟲」が引き起こす様々な現象に、その知識で向かい合うことを生業とした「蟲師」。蟲といっても昆虫のような虫ではなく、それは動物でも植物でもない命の源流に近い不思議な生命体です。その姿は見えない人の方が多く、それでもそこに住む生き物たちに様々な影響を与えます。

主人公は蟲師の青年で、旅をしながら蟲の起こす様々な事象に遭遇します。蟲で困る人の依頼を受けたり、ただただ蟲の起こしたことに巻き込まれたりします。基本的に一話完結で、必ずしもハッピーエンドではありませんが、バッドエンドかと言われるとそうでもない不思議な雰囲気があります。人の理と蟲の理は違っていて、全てが人の良いように起こる訳ではなく、人を主人公にしてはいますが、人が世界の中心ではない物語です。

ですが登場する人はみな人間臭く、魅力に溢れています。人情にほっこりする話もあれば、涙が出そうになる話もあります。本当に様々な人、蟲、物語があり飽きることがありません。結末に正解は無く、絶妙な所にそっと置かれた様な物語のバランスに、私はすっかり魅了されてしまいました。

読んでいると、音も無く水が土に染み込むように、心に何かが染み込んで溜まっていくような心地がします。読み終わって暫くは、霧深い山を見るとそこに蟲がいるのかな、なんて思ってしまいます。色んな感情を呼び起こされて忙しかった筈の心は、それでも読み終わった頃には落ち着いている、なんとも不思議な物語です。